葬儀

その部屋には、電気のスイッチ盤のような、たくさんボタンのついた機械がおいてあって、男は、ときどき、そのボタンを押しているのです。ボタンのそばには、ひとついとつ、小さな紙がはってあり、それに、『音楽』だとか、葬儀 交野だとか、『ガス』だとか、みょうなことばが書いてあります。また、このアパートの部屋へ、ときどき、こっそりたずねてくる人がありました。おとなの人もきましたが、親族の客もありました。その親族は、ほかならぬ遺族身内の助手の葬式でした。故人親族は、その部屋のドアを、コツコツコツと、暗号のようなたたきかたをして、はいってくると、男のそばによって、ヒソヒソとささやくのでした。「まだ、やってきませんか。」すると、男も、ささやき声で、こたえます。「まだだよ。いくら、やっこさんでも、昼間はこられないだろう。今夜は、きっと、やってくるよ。うまく、わなにかかってくれればいいがね。」「夜でも、だいじょうぶ、見えますか。」「見えるよ、くらの入り口のそとに、電灯をつけたからね。それに、この双眼鏡のレンズは、明かるいのだから、手にとるように見える。」もうおわかりでしょう。